先日、池袋にあるブックカフェ(梟書茶房)にランチで入ったところ、旅書コーナーの中で「深夜特急」全巻を発見。ついつい手に取ってしまう(この件、ツイッターで報告済み)。20数年ぶりに読んだのですが、1巻の香港・マカオ編では何を見ても珍しく、どこへでも首を突っ込んでいく沢木耕太郎氏に、思わずバックパッカーになりたてで初々しかった頃の自分と重ねてしまう。香港の水上生活者集落(おそらく、アバディーンの辺りですね)では、言葉はさほど通じないながらも子供たちと語り合い、マカオではギャンブルに引っかかりながらもディーラーの癖を見抜き遂には勝利する。初めて1巻を読んだ当時の、大学に入った頃の私には、あまりにも刺激的で眩しい内容で、私が初めてバックパッカーとして、1991年のバリ旅行にも携えて持参するくらいでした。
 
しかし、初々しいくらいのバイタリティーや輝きは、2巻以降、どんどんなりを潜めていきます。まあ、ネパールでボランティア活動に参加したりなどありますが、沢木氏は、インドのあの気だるく退廃的な空気に身をゆだねるようになる。周りを囲む人たちは、そんな沢木氏により輪をかけたような、例えば薬物で死んでいくような外国人も登場!読み進める私もウツになりそうな、暗いトンネルに突入する。
 
沢木氏がそうした暗闇から脱出するのは、おそらくトルコとイタリアでの、ある1人の男性に関わる別々の女性との出会いから。何か旅が達観したものとなり、ポルトガルでのクライマックスとなる。ロカ岬からロンドンまでの旅は、まあ、余興でしょう。
 
こうした沢木氏の旅、彼はライフサイクルに例えて表現していました。ライフサイクルとは、幼年・青年期から成人期を経て老年期に至る一連の人生サイクルのことで、例えばマーケティング経験者なら「製品ライフサイクル」(導入期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期)に例えたりしますよね。彼のバックパッカー生活は、幼児・青年期における”何でも見てやろう・吸収してやろう・体験しよう”という時期から、一気に”倦怠期・ウツ期”に入るが、その後、トルコなどでの出会いを経て旅が成熟する。確かに、ライフサイクルに準えるのは納得です。
 
ひるがえって、私の旅を見て行きますと・・・確かに、大学生(院生を含む)時代の旅は、何を見ても新鮮で面白く、トラブルに出会うことも楽しめました。地元の人だけではなく、同じ日本人の旅行者と語らうことも楽しく有意義でした。しかし、いつしか見るものすべて、旅の出会いやトラブルまでもがルーティーンなものになってしまう。
 
さあ、ここからが旅人の試練ですね。刺激を失った状況でどうするか?以下、a)~d)のうち、どの選択肢を選ぶのでしょうか。
 
a) 沢木氏が見た絶望的なウツ状況に身を潜める人、それ、まさしく「沈没」!
b) より大きな刺激を求めて〇山ゴンザレス氏や高野秀〇氏のような旅を続ける
c) より深い知識や真実を求めて学者や宗教家を目指す
d) まぁ旅人を辞めて企業人になる
 
私の場合は、c)を目指したが、自分が凡人であることを自覚しd)へ。しかし、旅の刺激に勝てるものは社会人生活人では何もなかった。d)を抜け出す資金を得て、現在は惰性を感じながらも、しがない旅人を続けています。また、年齢を重ねていることもあり、旅人ライフサイクルの「成熟期」に入っていそう。何気ないことが楽しく美しく感じられるようになりました。う~ん、旅ってイイね。


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