箱根や伊豆、軽井沢などと比べるとどうしても地味さが拭えない秩父、埼玉県を代表する観光地でありながら映画「翔んで埼玉」でもほとんど突っ込まれなかった秩父、そんな秩父をこよなく愛する私です。確かにオシャレ高級リゾートや昨今はやりのモダンor新感覚(…W)旅館はこの地には見当たりません(単に私が知らないだけ?)が、秩父には誇るべきホスピタリティに溢れた昔ながらの温泉宿があるのです!


 秩父は古来より秩父札所三十四ヶ所の巡礼路として数多くの参拝客を受け入れてきた歴史があります。山深き場所にある観音神社のそばには古くからの巡礼宿が建ち、疲労困憊の巡礼者たちを温かくもてなしてきたものと想像できる。そうした宿が現在も残り、素晴らしいホスピタリティと贅沢なご馳走、疲れを根底から癒す温泉で私たち旅人を迎えてくれることに感動しました。今回の旅では「せせらぎ荘」と「巴川荘」に泊まりましたが、どちらも私たちが期待する以上のオモテナシで迎えてくれたことに感謝し、旅行記を始めたいと思います。

【9月23日】せせらぎ荘に宿泊

 高級旅館「ゆの宿 わどう」をチェックアウトし次に向かった先は「せせらぎ荘」、西武秩父駅に到着した旨の電話を入れると15分ほどで迎えに来てくれました。実はこの9月23日、報道では翌日にかけ台風12号が関東を直撃する可能性が高いなどと言われており、キャンセルすることも考えていたが(結果的には台風は本土からそれて北上し、雨もさほど降らなかった)旅を決行、仮に台風の中の宿泊となっても秩父の地で大きな自然災害が起きることはナイはずと楽観的に構えていました。

 迎えに来てくれたご主人と台風の話題になると、せせらぎ荘は荒川本流のすぐ脇に建つため、台風など川が増水した時には豪快な”荒れ川”の景観が見られると話してくれる。とくに昨年の台風ではかなり危険を感じたそうだが、結果的には何の被害もなく過ぎ去ったとのこと。ちなみに荒川は私とも縁の深い川、私の実家は荒川のだだっ広い河口に近く、小学生の頃は自転車を飛ばし荒川を眺めによく行った思い出の場所。この荒川の流れに手が届くような所に建物があるなどニワカに信じられなかったのも事実でした。


 そうこうするうちに宿に到着、オーナーの奥さまとも挨拶し、中津と言う名がついた部屋に通されると・・・

 窓のすぐ外には荒川の急流が見えるのでした。

 本日の宿泊客は私たち夫婦だけとのこと。翌日には台風が関東を直撃するかもしれないのに、悠長に旅行を楽しむ者は確かに少ないかもしれません。本来は共同の温泉大浴場を我々だけで使ってくれとのこと。本来なら、こうした温泉旅館なら家族風呂として貸切で使うのはオプションのはずですが、そこは粋なオーナーご夫婦のモテナシですね。

 いかにも風情のある廊下をわたり浴室に向かう・・・

 岩風呂に湧く上品な泉質の湯は、ずっと浸かっていても湯あたりすることはありません。窓辺のすぐ外には、やはり荒川が流れているのがイイですね。

 部屋と温泉を行き来したり、部屋では茶菓子をつまみながら川面を見るとエサを見つけようと奮闘するシラサギの姿を見つけ微笑ましさを感じる……なんと贅沢な時間を過ごしているのかと感銘を受けました。そうこうしている内に夕食の時間、部屋出しでもOKそうですが、わざわざ食事用の部屋を設えているとのこと、そちらに向かいます。

 オーナー奥さまが選曲したクラシック音楽がカセットデッキから流れる中、すでに置かれていた前菜料理をつまんでいると程良いタイミングで次々と出来立ての御馳走が運ばれてくる。こうした日本旅館の素晴らしいオモテナシを体験すると、大型ホテルのバイキング料理など食べちゃいられません。こちらの宿、予約サイトでは「料理自慢」をうたっていたが、その言葉に偽りはなく、山の食材を活かした正真正銘の素晴らしい手料理に妻は感動の声をあげる。日本旅館バンザイ!


 宿のオモテナシは翌日にも続きます。朝食の後、部屋でしばらくウダウダしているとコーヒーを差し入れてくれる。川辺を見ながら味わうコーヒーは……メコンの流れを眺めながら飲むラオス・バンビエンのコーヒーを思い出します。
 
【10月1日】巴川荘に宿泊

 前回の旅行で秩父・温泉旅館の魅力にすっかりはまってしまった私たちは、さっそく巴川荘を予約しました。東京都に住む者は9月いっぱいまではGoToトラベルの恩恵にあずかれず、必然的に高い旅行代金を支出していたのですが、10月1日からは都民も晴れてGoTo解禁!秩父市助成の宿泊クーポン(10月4日チェックアウトまでが期限)と併せ、と~ってもお得な料金で宿泊が可能となったのです。東京以外に住む方は、この特典を2カ月以上も前から受けていたのかと思うと少々悔しい気持ちもありますが、10月以降は私もGoToキャンペーンにどっぷり浸かっていきたいと思います。

 西武秩父駅から秩父鉄道・秩父駅の間、番場通りには明治から昭和期に建てられたレトロな建築が多く立ち、散歩にうってつけのおススメ通りです。名物のくるみ蕎麦や有名肉屋で惣菜コロッケなどをつまみ食いしながら秩父駅に向かう。駅到着後、宿に電話をし迎えに来ていただく……東南アジアのゲストハウスを渡り歩いてきた身には、当然のようにある送迎サービスもとてもアリガタイです。

 宿の御主人の持つ山に関する知識はとにかく尋常ではなく、その道の専門家ではないかと思いました。御主人が言うには、秩父でとれるもっとも高価なキノコは香茸(コウタケ)というもので、香り・味・値段(!)ともにマツタケの比ではないらしい。御主人は先日も(我々に提供するため)香茸を探しに山に入ったが見つけることはできなかったらしい。キンモクセイの花の様子で香茸などキノコの旬が判るらしいが、10月1日ではまだ少し早かったねとのこと。う~ん、残念!


 宿にチェックイン。ロビーには時代物のポスターや陶器が所狭しと置かれており、中には某皇室の方がこちらに立ち寄った写真も飾られている。長い歴史を積み重ねた温泉旅館の魅力にさっそくノックダウン。


 宿の近くからは武甲山の雄姿が見える。素晴らしいではないですか!


 こちらの旅館も宿泊者は少なく、源泉が流れる大浴場は常に貸切り状態!前回のせせらぎ荘もそうでしたが、大浴場を常に独り占めできる贅沢さと言ったら・・・極楽!この状態にはまったら、ビジネスホテル(シティホテル)の小ぎれいな内風呂なんか入っていられません。

 大浴場でウダウダ、近所の散歩でウダウダと時間を過ごすうちに、いつのまに夕食タイムが迫ってきました。この巴川荘は食事(部屋食!)がとにかくスゴイのです(ただし、量もたっぷりなので、存分に腹を空かしてから夕食にのぞんでください)。

 まず前菜から。巴川荘の御主人2人が織りなす料理は、まさかのフレンチ仕立てにも似た懐石料理。地元の食材たちもこれだけ美しく仕上げられればさぞ満足でしょう。ちなみに、リンゴの上に乗った黒い酢の物は岩茸という貴重なキノコ。断崖絶壁の山肌に生える岩茸を懸命に採取する姿を描いた浮世絵(コピー)を見させていただき、恐れ入ってしまった。



 次から次へと山の恵みが運ばれてくる。鮎の塩焼きも舞茸の天ぷらも絶品でした。ちなみに、これらの写真は今回の御馳走のほんの一部、松茸の土瓶蒸しも今までに食べたことがないほど香り立つ素晴らしいものでしたが写真を撮り忘れてしまう(つまり脇役?)ほど。

 今回のメインディッシュ、猪鍋の登場。私は大学生時代に丹波篠山を訪れボタン鍋(猪鍋)を食したことがあるが、それからおよそ30年が経過し再び猪と対面する。当時食べたモノと比べ、肉質が柔らかい上、肉臭さもなく食べやすかったです。しかし、さすがに大食漢の私も腹一杯、これ以上は食べられないことをご主人にお伝えします。


 すると翌日の朝食後、部屋にはコーヒーと一緒にステキなデザート(抹茶のムース)が運ばれてきた。それってもしかしたら昨晩の夕食で出す予定だったデザートではと思った。腹一杯になり食べられなくなったデザートをさりげなく置いてもらえる…小さな温泉旅館ならではのキメ細かなサービス精神に感服です。

 名残惜しくもチェックアウトの時間が近づいてきました。帰りもクルマで送っていただけるとのこと、駄目元で少々離れた場所にある観光スポット(浦山ダム)まで送ってもらえるか尋ねたところ、快く承諾いただく。秩父の愛すべき温泉旅館、最高だぜ!


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