インドに一度も足を踏み入れたことがない方にお聞きします。インドといったら何を思い浮かべるか・・・カレー、ターバン、タージマハル、数字の0、インド哲学……と挙げたらキリがありませんが、私はなぜか動物が上位にランクイン。あのインドゾウに、砂漠のラクダ、トグロを巻いたコブラなどなど・・・。ターバンを巻いたオヤジが、ヘンテコな形の笛(ブーンギー)をピーヒャラヒャラ~と吹くとコブラがヌーッと籠や壺から首を出し、オジサンの奏でる音色に乗って踊り出す、あの蛇使いの芸を想起する方は少なからずいるものと思います。
 
そう、インドって言えば、あの蛇使いなんだよ~!ウサン臭さ満載のオヤジ、しかも蛇一式道具を頭に載せるためではあるがターバンを巻いた、いかにも貧相なオヤジのイメージがまさにインドそのもの。例えばタージマハル風建造物の前でカレーを食べている蛇使いオヤジがいたら、もうインドしかありえない光景。仮にそこが中国やアメリカのレジャーランドだと言われても信用できない、う~ん、先入観って恐ろしいものです。
 

ちなみにこの写真は1994年(古い!)、私がはじめてインドを訪れた際に撮影した一コマ。オヤジの蛇使い芸を一通り見学した後はお約束でしょうか、無理やり私の肩に巨大な蛇を巻き付かせたり、コブラを頭の上に載せられて記念撮影。実はこの時、同宿だった美しき日本人女性と行動を共にしていたが、彼女はさらに過激な芸にチャレンジさせられていたことを思いだす。ヒエ~!
 
と、これが古き良きインドを旅行できた時代と回想するときが来ることなど、当時は想像さえつきませんでした。デリーやアーグラといったインドを代表する観光スポットへ行けば、いつだってウサン臭い蛇使いのオヤジが待っている。私のような外国人観光客を目ざとく見つければ、おもむろに籠を開け笛を吹きだす。まだインドへ行きたての頃は、そうした蛇使いの大道芸が興味深く立ち止まって見てしまうが、カメラなど取り出そうものならチップを要求されるのがオチ。立ち止まっただけでもチップチップと喚く姿に嫌気がさし、いつしか蛇使いオヤジを見つけたら遠巻きに避けて歩くのが習わしとなってしまいました。
 
時は経ち2016年、再びバックパッカーとして何度目かのインドを訪れることになるが、一抹の寂しさを覚えてしまった。インドを旅行すれば誰もが思う、あの喧騒。コジキの類やツーリストからお金を巻き上げることしか考えない詐欺師連中は相変わらず登場するし、人に道を聞こうものなら何人も寄ってきて教えようとするのだが正解の道はそこにない・・・こんなインドの姿は20年以上の時を経ても変化はないように思えた。しかしねぇ~なぜか寂しい。そう、あいつの姿がないんですよ。観光地ならどこへ行っても、どこからか湧き出したように登場した蛇使いのオヤジ!いたらいたでウザったいが、いないとそれは寂しいオヤジ、あなたがたはどこへ消えてしまったの??
 
ウィキペディアから引用すると「2000年代後半からインド当局により野生生物保護法の適用が厳格化されコブラの捕獲が事実上不可能となった。警察による摘発も進んだため、2010年代に入ると(蛇使いは)インド国内からは急速に姿を消している」とのこと。あのさぁ~これって動物保護にかこつけた文化破壊じゃないのぉ~!インドにおける蛇使いの歴史を紐解いたことはナイが、おそらく数百年は維持してきた文化をたった一つの法律で破壊してしまう愚挙。こうした摘発の結果、数十万人存在した蛇使い”職人”が失職し、25万人程度は貧困に直面していると時事通信は伝えているそうです(2013年10月14日)。
 
野生動物保護の観点は当然ながら私も理解していますが、その行き過ぎた適用には疑問符がいくつもつきます。とくに、それが伝統文化と結びついた場面では・・・一律に適用するのが難しいことは、日本人から捕鯨の文化を放棄させようとしたIWC(国際捕鯨委員会)の暴挙すら連想させます。
 
さて、蛇を使った”大道芸”と言えば、日本が世界に誇る(?)ハブとマングースの決闘もありましたね。

こちらの写真は1999年(またまた古い!)私と妻で沖縄旅行をした際、玉泉洞文化村で撮影したもの。当時はまだハブとマングースの熱き決闘が行われていたが、たしか闘っている際中の写真撮影は禁止されていたはず。ハブvsマングースの闘いが佳境に近づき観客一同が興奮の坩堝に入る中、私も一緒に興奮したものです。まぁ妻はかなり冷静に、興奮した顔つきの私を冷ややかな目で見つめ”バカみたい”と言っていましたが…。
 
この玉泉洞(おきなわワールド 文化王国・玉泉洞)を2013年にやはり妻と再訪するが、そこに熱い決闘を行うハブとマングースの姿はなかった。まぁ管の中にハブとマングースが放たれ競争するショーを行っていたが、そこに熱い興奮は微塵とも存在しなかった!残念。このハブvsマングースの件もネットで検索すると、動物愛護法によって2000年に決闘ショーは禁止されてしまったとのこと。すると、1999年に見学できた私たちはまぁラッキーだったと言えるのでしょうか。
 
動物たちの決闘なんぞ確かに残酷なもので、ハブvsマングースの決闘が歴史的価値もさほど持たない単なるショーなら”廃止”となっても止むを得ないかなとは思います。ところが、それが歴史的価値を持った伝統文化として行われてきたのなら話は違います。インドの蛇使いや猿回しは歴史ある芸能文化としての側面が強い上に、特段の残酷さはないように思える。つまり、動物愛護の名のもとに、動物を使った全ての伝統芸能を中止しようという動きが行き過ぎだと思うのです。
 
まぁ、何頭ものお馬さんを死に物狂いで走らせた上に、それをギャンブルの対象にしてしまう欧米人の文化が許されている点で、まさにダブルスタンダード!競馬というトラディショナルな文化の前に彼らの建前は崩壊しているが、動物愛護を訴えるギャンブラーはそんな現状には目をつぶるしかないでしょう。私が子供の頃に訪れた高知県で見たシャモ(軍鶏)による闘鶏が現在でも行われていることは喜ばしい限りと言えます。


<スポンサーリンク>