中国雲南省・元陽近隣の村々を巡る旅もいよいよフィナーレ、今回は牛角寨の定期市(集市)を見学します。牛角寨は元陽(新街)からミニバスで1時間ほど離れた場所にある普段は静かな山あいの小さな町だが、4日に1回(旧暦の寅・午・戌の日)開かれる定期市の日はハニ族やイ族の民族衣装を美しく着込んだ人々で大賑わい。近隣の山々にこれほど多くの人々が住んでいることに驚かされてしまう。少数民族ウオッチャーの私ならずとも大興奮の1日となること請け合いです。
 

雲南省のエスニックグループの中でも指折りの美しい衣装を着こむハニ族の方々には、憧憬をもち続けていた私。彼らのリアルな生活にも触れてみたいと思い、箐口などいくつかの村々を地元の方の案内で歩き回ったが、貧しさを自覚しながらも敢えて目を背け、現状に満足しながら塩漬けの虫をお茶うけに勧める彼らの姿にショックを受けていました。たった10日程度の旅行で、社会調査員や文化人類学者の真似事のように、村々を巡りながら彼らの生活に土足で踏み込み暗部をえぐり出すようなことはヤメにしよう。美しい民族衣装を堪能し、美しい思い出を持って日本に戻ろうと考えを改め、街(元陽)で情報を集めると折よく牛角寨という街で美しい定期市が行われるとのこと。牛角寨ってこれまで一度も聞いたことはなく(2009年当時だとSNSからの情報も……期待できません)、アクセス方法なども含め全く見当がつかなかったが、街の人が言うには定期市の日には朝早くからミニバスが運行されるらしい。強く勧められたこともあり、これは行くしかないでしょ!
 

早朝の元陽(新街)の様子、おいしい”うどん”をいただきます

早朝に街を出発といっても不安がることはありません。元陽(新街)は市場を中心に発展した街で、朝からとにかく賑やか。ホテルから歩いて数分ほどの場所にある食堂街には麺をほおばるハニ族の方々が押しかけ、ウオッチャーにとって至福の時間が過ごせる。まるで日本のうどんのように太い小麦麺は、見た目とはまるで逆の繊細な素材の味が活かされGOO~D!お隣で肉包(肉まん)や焼き豆腐を買えば、朝からご馳走の山に大満足です。
 
お腹をみたし満を持して広場に向かうと、多くのミニバスが停まっていた。ただ牛角寨へ行くミニバンがなかなか見つからない。北京語の発音で”Niujiaozhai”と言ってもハァとため息をつかれるばかり。ただこんな時、日本人には大きな武器”筆談”があるのです。中国語(北京語)には自信があり筆談など使うモノかと意地を張っていましたが、私の発音で通じない以上は仕方がない。妙なプライドは旅の邪魔にしかならないのです。すると直ちに見つかりましたよ。ただ、ミニバンのフロントガラスには牛角寨とは表示されず、さらに奥にある町の名が記されていた。機会があれば、そちらにも行ってみたいです。
 

牛角寨に到着、ラクダのお出迎えに興奮

牛角寨までは1時間ほどの行程だが、到着寸前ですでにクルマは人混みの渦の中。市場のだいぶ手前で私たちを降ろし、ミニバスはさらに奥の町へと発ってしまいました。

人混みと言っても、歩いている方はほぼ全てがハニ族やイ族の民族衣装を着こんだエスニックグループの人々。籠には大量の野菜や動物(鶏)をつめた人たちが市場へと向かっており、興奮度が徐々に上昇してくる。
 
人混みにピッタリとくっつき10分ほど歩いたでしょうか、いよいよ牛角寨、定期市会場の入口が見えてきたら・・・

驚愕のラクダが登場です。こんな雲南省の片田舎に野生のラクダがいることなどありえない!まぁ定期市ですから人がワンサカ集まるのは判りきったこと。どこかの業者がラクダを持ち込み、一緒に写真を撮らせては金稼ぎをしているのでしょう。と写真をチェックすると”写真撮影は10元”と書かれた幕を腹に巻いていますね。案の定、地元ハニ族のオバサンがラクダにまたがり写真を撮っていました。
 

では牛角寨の定期市会場をご覧ください

定期市はかなり広い広場で行われており、生鮮食料(大半が野菜)や衣料雑貨を売る屋台が所狭しと立ち並んでいた。これだけ皆さんが民族衣装を着ているのは壮観の一言。

こちらは黒地の上半身衣装、正面から見ると多少地味めに見えますが・・・
 

背中側は幾何学的な四角の模様を交互に刺繍した、とてもカラフルな後掛を腰に巻いているのです。しかも足にはいたダボダボのパンツには、これまたカラフルなガードル状の刺繍が施されている。オシャレ~!
 

市場でお買い物をするお年寄りの方々に”写真を撮らせてほしい”と声をかけるが、そもそも私が話す北京語が通じない。カメラを向けるとハニカミながらも駄目のポーズをとる。う~ん、写真撮影って意外に難しいのか?
 

と思っていたら、若い方の方が写真撮影に気軽に応じてくれる。ウレシイゼ!やはり、こちらが話しかける言葉をや意図をしっかりと理解してくれるからこそ、警戒心も薄れ心置きなくコミュニケートがとれるのでしょうか。ただカメラ目線というか、レンズの正面に顔を向けることは……私でも恥ずかしいですよね。
 

ただねぇオコチャマだと言葉によるコミュニケートすら必要としません。カメラを向ける私に好奇心丸出しの様子。
 

この市場で私の関心を引いた売り物は、派手なデザインが施された民族衣装風衣装の数々。実は90年代に雲南省各地を旅行した際に見た民族衣装はそのほぼ全てを自分で刺繍したもので、中には下手ウマながら味わいのある衣装デザインにも巡り会えました。ところが、今回、牛角寨で見たものはおそらく大半が既製品で、それはそれは美しくデザインされたもの。まぁプリント製品はさすがに見ませんでしたが、統一感のある幾何学的なデザインが施された衣装は、その大半が小規模な工場で縫製された既製品なのでしょう。老若男女を問わず既製品を売る屋台には人が群がる……これも時代の流れでしょうか。ただ、90年代には街のあちこちで若者が一所懸命に縫物をしていた光景、それってもう過去の懐かしき光景となったのか。誰もが習得していた縫製の技術が後世に伝えられるのかどうか、そんな面倒なことって……まぁ無理なのかなぁ。悲しいぜ!
 

定期市の開催広場、奥には家畜市場もありました

定期市が行われる広場を後にし、さらに奥へ歩くと、ブーブーモーモー鳴く動物たちの声が響き渡る。繋がれた大勢の子豚ちゃんたち、これから君たちは育てられ食べられる運命だと思うと・・・オイシソウ!
 

生鮮品や雑貨が売られる定期市会場はまさに女性たちの世界でしたが、ウシ市場に女性の姿はなかった。そこに民族衣装はなく、ただ屈強そうな男たちが秘密めいた交渉をしている。牛角寨という町の名の由来は、ひょっとするとウシ市場にあるのか。この牛たちの奥にはさらにディープで危険な香りすら漂う世界が広がっていそうだが、帰りのバスはほとんどが昼過ぎまでには出払うらしい。ホテルを元陽に確保していた私たちは、後ろ髪を引かれる思いで牛角寨を後にするのでした。


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