先日見学したタナトラジャの葬儀では、死者への生贄として屠殺するためだけに用意された、おびただしい水牛や豚の鳴き叫ぶ姿に言葉を失ってしまう。ただ頭の中は意外に冷静で、こうした動物たちをどうやって準備するのだろうと疑問も感じました。実は、(食用や労働用ではではなく)葬儀用の生贄となる動物たちを売買する市場がタナトラジャには何ヶ所かあり、とくにランテパオからほど近いボルという街にある巨大な”生贄市場”が有名らしい。これは行ってみるしかないでしょ!

トラジャ族の葬儀を目の当たりにした翌日、まだ興奮は収まらず、刃にかけられた何頭もの牛や豚たちの鳴きわめく声が耳に残っていました。この牛や豚たちは、ただ死者の供養のために屠殺されていく・・・う~ん、生き物の価値とはその程度のものなのか?死んだ者より、まだ元気に暴れる生き物たちの方が価値が低いのか?死者に対して生命を差し出す行為は、例えば中南米で興隆したマヤ・アステカ文明を例に出すまでもなく世界各地で見られたものだが、それって死後の安定的生活や来世での復活を願う(前近代的な)宗教行為のはず。たとえ動物とは言え、現代にも生贄の儀礼が行われていることに違和感を覚えていました。
 
この日は一日休んでいようかなどと思いながらも、あの役に立たないツーリストインフォメーションへ行ってみました。そこには情報はナイが、外国人ツーリストが集まってくるため話し相手はすぐに見つかるはず。
 
さてインフォメーションに着くと、さっそくバイクタクシー(オジェ)の兄ちゃんから「葬儀を今から見に行かないか」と声をかけられました。さすがに、この日は見に行く気は失せていたので断ったところ、「それなら、ボルの水牛市場はどうだ」と言われる。このランテパオからほど近いボルという街で、葬儀で供される牛や豚を売買する市場が6日に1度ほどの割合で開かれており、ちょうど今日(7月31日)は市場が開催される日だとのことです。「さすが、オジェの兄ちゃん!」と心の中で小躍りしました。
 

ボルへの行き方

せっかくオジェ(バイクタクシー)の兄ちゃんがくれた情報なので、近い場所なら彼に乗せて行ってもらおうと考えていたら、彼は「外人を葬儀に連れて行った方が金になる」とのこと。ボルまでのベモ(ワゴンバス)での行き方を教えてくれました。

ランテパオのベモ乗り場

ランテパオには、目抜き通りが1本しかありません。案内所からまっすぐ(北東方向)に10分ほど(500m程度)歩くと大きな交差点があります。そこにベモが何台か止まっていることが多いので、ベモのドライバーに「ボル、ボル」と言えば、どの車に乗るべきか教えてくれます。

ボルまでのかかる時間、料金

ランテパオからはベモで10分くらいで着きます。おそらく2~3kmくらいでしょうか、歩いてでも行けるはず。ただベモの料金がとても安い(当時で片道IDR2000≒17円程度)ため、わざわざ苦労してまで歩く必要はないでしょう。
 

ボルの街の紹介
ボルは交通の要所、巨大なベモターミナルが目を引く

写真の通り、ボルに到着した際、ベモの発着場があまりに大きいので驚いてしまいました。牛や豚のマーケットがどこで開かれているのか、見当がつきません。人に聞こうにも英語を解せる人がいないばかりか、話しかけても微笑むだけでかわされてしまい、少々途方にくれてしまう。

巨大なマーケット街としての顔

仕方なくターミナルから離れ歩き出すが、牛豚市場にたどり着く前なのに巨大マーケット街に踏み入れ迷ってしまう。食料品や日用品を売買するマーケットの活気が勝っているためか、本日開かれているはずの牛や豚たちの、あのケタタマシイ叫び声ははどこからも聞こえない。

鶏の品定めをしているのでしょうか。インドネシア各地ではギャンブルとして闘鶏が行われており、”けんかに強い”鶏が高値で売買されると聞きます。これも闘鶏用の鶏を品評しているのかもしれないが、そこには言葉の障壁があり確かめることができなかった。
 

ボルの水牛市場は、とにかく迫力がすごい

しばらくマーケットを歩いていると、いつの間に広場に出る。牛が何匹も引き連なって歩いており、目的の生贄用市場に到着したようです。

近くで見るとかなりの迫力です。この角で突かれたら、ひとたまりもありませんね。

トラックに載せられて続々と牛たちがやってきます。牛さんのオシリが妙にカワイらしく、写真をパチリ。

運ばれてきた牛の中には紐で繋がれたものもいます。これから品評会が始まるかの様子。ちなみに、写真を撮ろうと牛に近づいたところ、いきなりシッポを大きく振りかぶり、バシッと叩かれてしまった。僕はね、別にキミに悪さするわけでもないし、葬儀用に生贄とすることもないのだから、そんなに怒らないでよ!まぁタイトルの「度突かれる」は大げさですが、結構痛かったのを覚えています。
 

豚がつながれた市場。ブーブーブーブー非常にうるさかった!

 

ボル市場の見学を終え、午後はさらにトラジャの奥地へと向かう

ここにいる水牛や豚は死者の供養のために屠殺されるだけの存在かと思うと、やるせない気持ちになるかと言えば・・・これだけ活気のある市場を見て、なぜか前日の疲れが吹き飛んでしまった。このボルは交通の要所でもあり、タナトラジャの村々を訪れるのに都合がいいはず。事前にガイドブック『ロンリープラネット』の地図をコピーしてあったが、どうも「サダン」や「パラワ」「パンリ」という村ならベモで行けそうな様子。まだまだこの日は午前中、これからトラジャの村々を巡る小さな旅に出かけます。


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