風葬が現在でも行われているケテケスでは、遺骨がそのまま散乱した墓地を見学することができます。そこでは、死者を模ったタウタウ人形の先に、いくつもの頭蓋骨が朽ち果てた木の舟の上に載せられていた。タナトラジャの、のどかなトンコナンの並ぶ集落の背後に潜む死の世界!まさにその入口に辿り着いたようで、背後に冷気が流れるのが感じられる?
 墓地の見学後、私はまるで墓守のように毅然と立つ犬に吠えたてられ、それまで順調に作動していた愛用のカメラレンズがなぜか故障してしまう。好奇心だけで墓地を訪れた、不心得な旅行者に対する呪い……の訳がないよね!?

 

ケテケス入口の表示板 ベモを降りてからケテケス村まで迷わずに行けます

 8月1日、風葬で名高いケテケスを訪れる。ケテケスまではランテパオからはマカレ方面に向かうベモ(小型バス)で直接向かうことが可能。ベモ料金は2012年当時で片道IDR3000(約25円)。
 ベモに乗る際、運転手に「ケテケス」と告げておけば、おそらくこの表示板の近くで降ろしてくれる。表示に従って歩けば、村まで迷わずに歩けるはずです。
 

 田畑のあぜ道のような場所を歩いていると、前方にかなり大きな集落が見えてきました。どうやらケテケス村のようです。村に入る手前では大きなやぐらを建てている真っ最中、近いうちに葬祭が行われるのでしょう。
 

 ケテケスの集落に入りました。ここも他のトラジャの集落と同様に中央広場があり、その両側にトンコナンが立ち並ぶお馴染みの光景。ちなみに、私が見てきた他の村と比べケテケス村の広場はかなり壮観、中央には(周囲とは不釣り合いな)卓球台が置かれ子供たちが遊んでいた。外国人観光客も多く来ている様子がうかがえます。
 

 トンコナンの外れで魚を焼いている人を発見。集落の前に大きな池があり、そこで釣った川魚でしょうか、とにかくおいしそう。ちょっと味見させてくれと言いたかったが……
 
 とにかくのどかな光景に唖然とするばかり。この状況だと、どこに風葬の墓地があるのか皆目見当がつきません。そばにいた外国人に聞いても「知らない」と言われてしまう。こうした外国人はガイドにただ連れられて来ているだけで、おそらくどの村を見学しているのかも知らない様子。
 「もしかしたらガセの情報かな」などと思いながら、村の高校生くらいの男性に改めて尋ねたところ、オォッ!という表情とともに、墓地の手前まで案内をしてくれた。目的の墓地まではトンコナンの裏にある山肌の坂道を上がっていくのが正解のようです。
 

墓地の入口では、タウタウ人形がお出迎え

 坂道を上がりきると、まるで空中に人が浮いているのか?なんて思わせるようなタウタウ人形が出迎えてくれた。最近に制作されたものと思われ、妙にリアルな造形に一瞬血の気が引いていく。しかし、ここで驚くのは序の口だよ!
 

 奥の崖の洞穴に目をやると、先ほど見た真新しい人形とは対照的な、古~いタウタウ人形が無造作に置かれていた。いきなりの出現にヒエ~ェェと叫びたいが、本当にビックリした時は声も出ないことを実感します。案内してくれた青年もすでに立ち去り、誰もいない山中で無声の叫びをいくら上げたって気付くものはゼロ。気の弱い人なら泣きたくなる状況かもしれません(私は強い大人だから、こんなのヘッチャラさ!)。
 

風葬の現場、心臓の弱い人はここで閲覧をやめてください

 舟を模ったであろう、いくつもの石棺や木棺が見えてきました。それらに近づいてみると・・・
 

 ご遺骨が雨ざらしのまま、無造作に置かれていた!中には、朽ち果てた舟の棺に置かれた骨が散乱しているのも多く見受けられます。
 

 崖に安置されたご遺骨も散見される。このまま野ざらしの状態で静かに風化していくのを待っているかの様子を見ていると、ご存知”諸行無常の響き~あり~”という『平家物語』の一節が琵琶法師の渋い声色と共に聞こえてくる。
 ただねぇ、この中に身を浸しても不思議に恐怖心は生まれてきません。いや~慣れって恐ろしいですね、お遺骨の写真を何枚も撮りだす私自身の姿に、魑魅魍魎も近づくことはないはず。まぁさすがに遺骨をアップで撮った写真を掲載するのは控えておきます。
 
 今回、掲載を控えた写真でもっとも印象的な光景を説明すると、頭蓋骨が安置された周りにビールなどの酒瓶が置かれていたもの。まぁ、お酒が好きな故人だったのでしょう。頭蓋骨にはタバコが刺さっていますが、そこ・・・口じゃないよ、鼻にタバコが刺さっているよ!とツッコミを入れてしまった遺骨です。ただ、これは、けっして死者への冒涜などではなく、故人に対する強い愛情をかえって感じるのでした。そばには遺影の写真が飾られており、まだ40代くらいの壮年といった感じのお父さんの姿。思わず、手を合わせてしまう。
 

帰路、人間世界とは異なる霊の存在を実感させる出来事に遭遇する

 墓地の見学を終え、ベモ乗り場に向け畦道を歩いていたところでした。実は墓地から割と大きな犬が後ろからつけて来ているなと思ったが、こちらに近づくこともなかったので、とくに気にかけていなかった。
 ところがトンコナンの集落を出ると、突如、田んぼの中を走って近づいてきて私に吠えだした。それまで、ただおとなしかった大型犬が、私が村を離れた途端に吠えだすなんて……!あのタウタウ人形や骸骨たちとは…比べモノにならない恐怖を味わう。
 そこで持っていたカメラを無意識に振り回して犬を追い払うことに成功、事なきを得たはずだったが・・・こちらに吠えていた犬の後姿を撮ろうとしたら焦点が合いません。レンズが故障してしまった!壊れたレンズでは1点でしか焦点が合わず、しかも映像自体が暗くなってしまう。集落の中では守られていたはずの私だが、そこから一歩外に出ると効力が失われ、魑魅魍魎たちにとって絶好のターゲットになってしまったのでしょうか?
 さて、この後から公開する写真は壊れたレンズで撮影した写真となりますが、画像を縮小しネットにあげたものでは、それ以前の写真とさほど違いがなさそう。やれやれでした。


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